同じ量を食べて同じ運動をしても、肥満になりやすい人とそうでない人がいます。糖尿病になりやすい人もしかり。その原因は何でしょうか?
遺伝要因、環境要因ももちろんありますが、もしかしたらその原因は「腸内細菌」の違いから来ているかもしれません。
近年、腸内細菌が肥満や糖尿病を防いでくれることが分かりました。逆を言えば、その菌が少ない人は肥満や糖尿病になりやすいと言えます。
どうやって腸内細菌が肥満や糖尿病を防いでくれるのか、管理栄養士が最新の話題を分かりやすく解説します。すでに肥満や糖尿病になっている人はもちろん、病を防ぎたい人にもおすすめの内容です。
腸内細菌はどうやって肥満や糖尿病を防いでくれるの?増やす方法は?と疑問に思う人へおすすめです。
◆参考文献:日本栄養士会雑誌 2024年10月号 Vol.67 公益社団法人 日本栄養士会
「腸内細菌由来短鎖脂肪酸を介した生体恒常性調節」
腸内フローラ10の真実 NHKスペシャル取材班 著 主婦と生活社
腸内細菌が作る「短鎖脂肪酸」が肥満や糖尿病を防ぐ
私たちの大腸には約100兆個以上の腸内細菌が住んでいます。腸内細菌の多くは、私たちが食べたものを分解して「短鎖脂肪酸」という物質を出します。
この「短鎖脂肪酸」が肥満や糖尿病を防ぐ働きをすることが分かったのです。京都大学大学院教授の木村郁夫先生が発見しました。
短鎖脂肪酸がここに効く!【脂肪の蓄積ストップ】
腸内細菌が出す短鎖脂肪酸は、私達の脂肪細胞に働きかけて脂肪の蓄積をストップさせます。
脂肪細胞が大きくなるのにブレーキをかけてくれるので、肥満を防ぐことができるのです。
短鎖脂肪酸がここに効く!【代謝アップ】
腸内細菌を出す短鎖脂肪酸に交感神経が反応し、エネルギーの消費量がアップします。
心拍数、体温が上昇して、全身の代謝が良くなるので、肥満を防ぐことができます。
短鎖脂肪酸がここに効く!【インスリンアップ】
腸内細菌が出す短鎖脂肪酸の働きかけで、インクレチンと呼ばれるホルモンが分泌されます。インクレチンはすい臓に働きかけてインスリンの分泌を促します。
インクレチンは糖尿病の薬としても使われている物質です。インスリンが出にくくなっている糖尿病の人にも、腸内細菌の出す短鎖脂肪酸が役に立つわけです。
短鎖脂肪酸が、「ちゃんと栄養摂っているから、必要以上にためなくて良いよ」と脂肪細胞にシグナルを出し、心臓には「食べ物入ったから、カロリー消費できるよ」とシグナルを出す。よく出来ていますね。
短鎖脂肪酸は、脂肪細胞と交感神経に働きかけて肥満を防ぐ「天然のやせ薬」
腸内細菌の違い「肥満の人とそうでない人」
腸内細菌が出す短鎖脂肪酸が肥満や糖尿病を防ぐことは分かりました。しかし、全ての腸内細菌が短鎖脂肪酸を出すわけではありません。
人によって、住みついている腸内細菌の数や種類は違うのです。できれば、短鎖脂肪酸を出す腸内細菌がたくさんいて欲しいですよね。
実際、肥満の人の腸内には短鎖脂肪酸を出す細菌が少なく、やせている人には多いことが分かってきました。
肥満マウスとやせマウスの実験
ワシントン大学のゴードン教授が2013年に行った実験を紹介します。
無菌状態で育てたマウスに、肥満の人とやせている人の腸内細菌を移植しました。すると、見事にマウスも肥満マウスとやせたマウスになりました。
この実験から、肥満の人とやせている人の腸内細菌が異なること、やせている人は肥満を防ぐ腸内細菌を持っていることが分かります。
どうやって腸内細菌を増やす?
私の腸内細菌には、短鎖脂肪酸を出す腸内細菌が少ないんだわ…とがっかりした人はいませんか?がっかりしなくて大丈夫です。この細菌を増やすシンプルな方法があります。
それは、腸内細菌の栄養を私たちがしっかり食べて増やしてあげることです。
腸内細菌の栄養は食物繊維です。
腸内細菌のエサは「食物繊維」!食物繊維豊富な食べ物を食べよう
食物繊維はどうやってとる?
食物繊維と聞くと何が思い浮かびますか?やっぱり野菜ですよね。野菜だけでなく、海そう類や果物にも豊富です。
しかし、野菜・海そう・果物は、日本人にとって不足しやすい食材です。令和4年度の国民栄養建国調査の結果でも、20歳以上の野菜摂取量が減っていることが明記されています。
なかなか野菜とれないんだよなぁ…果物高いし
どうしても野菜や果物を食べることが難しい人は、まず第1歩として「主食をご飯に変えてみる」ことをおすすめします。
皆さんの中には、ご飯=食物繊維のイメージがあまりないかもしれませんが、ご飯からも食物繊維がとれるのです。パンや麺ばかりだった人が、主食をご飯に変えることで、とれる食物繊維の量が増えます。
さらにご飯に麦や玄米を入れて炊いたり、パンを全粒粉(茶色っぽいパン)にすると、より食物繊維が多くとれます。
ご飯に含まれる食物繊維について、こちらのブログで詳しく紹介しています↓
まとめ
腸内細菌が出す短鎖脂肪酸が、肥満や糖尿病を防いでくれることが分かりました。また、肥満の人とやせている人の腸内細菌は異なっていることも紹介しました。
肥満や糖尿病を防ぐ・悪化させないためにも、腸内細菌を増やすために、エサとなる「食物繊維」をしっかりとることが大切です。
腸内細菌のことを考えても、食べる量を減らすだけのダイエットは良くないことが分かりますね。
肥満や糖尿病というと、「食べてはいけない」というマイナスなイメージが伴います。しかし、食物繊維についてはむしろ「もっと食べないといけない」というプラスの発想が必要です。
腸内細菌の中には、肥満や糖尿病を防ぐ働きをしてくれる菌がいる
その菌を増やすには、食物繊維をとることが大事