私の母も大変気にしている、魚の水銀の話。今日は厚生労働省が平成22年6月に改訂した「妊婦への魚介類の摂取と水銀に関する注意事項」を参考に、管理栄養士の立場で魚の水銀について真面目に語ってみた。
妊婦さんは注意、他の人たちは心配ない
魚介類には、自然界の食物連鎖を通じて微量の水銀を含んでいる。特定の地域などにかかわりなく含んでいるが、魚介の種類によっては含有量に違いがある。
水銀は大量に摂取すると子どもや胎児の脳の発達に悪影響があると言われていて、私が昔勤務していた保健所でも、妊婦に対しては食べすぎないようにと指導がされていた。(今もされている)
しかし、一般の人たちや子ども達に対しては、通常食べる魚介類によって水銀による健康への悪影響が出るような心配はない。あくまでも胎児への影響を考えての話なのだ。
厚生労働省が実施している調査によれば、平均的な日本人の水銀摂取量は健康への影響が懸念されるようなレベルではありません。
厚生労働省HPより引用
胎児への影響はどのくらい?
胎児に影響があるのに、私たちには影響はないって本当?とまだ疑ってしまう方もいるだろう。
近年、魚介類を通じた水銀摂取が胎児に影響を与える可能性を懸念する報告がなされています。この胎児への影響は、例えば音を聞いた場合の反応が1/1,000秒以下のレベルで遅れるようになるようなもので、あるとしても将来の社会生活に支障があるような重篤なものではありません。
厚生労働省HPより引用
水銀=脳に障害というイメージが先行して、妊婦さん以外の人たちまで過剰に心配している人が多い。というより、それによって魚を食べなくしている人までいることが、実は一番危険なのだということを強く述べたい。
ちなみに妊婦さんはどれくらい魚を食べてよいの?
摂取量(目安) | 魚介類 |
1回約80gとして妊婦は2か月に1回 | バンドウイルカ |
1回約80gとして妊婦は2週間に1回 | コビレゴンドウ |
1回約80gとして妊婦は週に1回まで | キンメダイ、メカジキ、クロマグロ、 メバチ、エッチュウバイガイ、ツチクジラ マッコウクジラ |
1回約80gとして妊婦は週に2回まで | キダイ、マカジキ、ユメカサゴ、ミナミマグロ ヨシキリザメ、イシイルカ、クロムツ |
このような指針がある。魚といっても、日々食べている魚はほとんど大丈夫なのがわかると思う。やはり、大きな魚ほど水銀含有量が多い印象。イルカは、日本では食用されている地域があるそうで、掲載されている。
私も妊婦時代はマグロのお刺身を週1以下にしなきゃと注意した程度だった。1回につき1きれ程度(15gくらい)なら、もっと頻回に食べられるなぁと思ったりもした。
しかし重ねて言うが、気にする必要があるのは妊婦さんだけですよ!!
まだ目や鼻もできていないような胎児の体重と、あなたの体重はどれほど差がありますか?大人であれば100倍近くも差があるはず。その胎児の水銀許容量とあなたの水銀許容量がどれほど違うかは、比べようもない。
一般の人や子どもたちにとって、過度な水銀の心配で魚を食べなくなることの方が健康被害が大きいということを、また言っておく。
魚を食べない方が健康被害が大きい
健康被害が大きいなんて大げさな。と思われるかもしれないが、これは事実である。
今までも日本のみならず、欧州の権威ある栄養学の雑誌にも実証された事実だが、魚の摂取量が多い人ほど死亡するリスクが低いことが明らかとなっている。
魚の摂取はどういう病気に効果があるかというと、以下の通りである。
- 心筋梗塞によるリスクを下げる
- 乳がんのリスクを下げる
- 大腸がんのリスクを下げる
- 肺がんのリスクを下げる
今までの論文結果から見ても、この5つつは間違いないということが言える。胎児に若干の影響を及ぼすかもしれないという情報だけをくみ取って、一般の人たちが魚を食べなくなるというのは、こうした魚の効能を捨ててしまうことに他ならない。魚を食べてきた日本人としては、本当にもったいない話だ。
ただし、胃がんに関してはリスクは下がらないことがわかっている。かといって上げるということでもなく、魚を食べた群と食べない群で変わりがなかったというだけのことである。
ちなみにこの効能は、魚に含まれるオメガ3脂肪酸やEPA(エイコサペンタエン酸)という青魚に多く含まれた脂肪酸、つまり魚の油がもたらしている。
どのくらい食べれば効能が期待できる?
食べたら食べただけ健康になるわけではなく、ある程度摂取するとそれ以上食べても健康上のメリットはなくなると考えられる。
世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事 津川友介著より引用
2016年に発表された欧州の栄養学雑誌には、合計67万人のデータをもとに調べた結果、1日60g魚を食べた人は食べない人と比べて12%死亡率が低かったとしている。しかし、それ以上食べた群では、そこからさらに死亡率が低くなるということは認められなかったとのこと。
「魚が良いらしい」というと、すぐにたくさん食べようとする方がいるが、そうではない。少量でも良いので、毎週コツコツと魚を食べることが大事なのである。
まとめ
魚の水銀は、妊婦さんが気にすることであって、一般の大人や子ども達は気にするレベルではない。
むしろ、そのせいで魚を食べなくなっていることのほうが、健康被害が大きい。
魚を食べることで心筋梗塞やがん(すべてではない)によるリスクを下げることができる。
食べれば食べるほどという話ではない。ご飯にしらすをかけるとか、たまにお刺身を買ってくるとか、干物を焼くとか、手軽な方法でコツコツと積極的にとっていきたい。
ちなみに
「オメガ3脂肪酸」とか、「EPA」とか「DHA」とかいうと、それだけをとればいいんじゃないとサプリメントに頼る人も多い。それも私は警笛を鳴らしたい。その話はまたいずれしたいと思う。